2017年01月04日

2017 箱根駅伝 ライバルが青学を倒せなかった理由

第93回箱根駅伝は「3連覇」&「駅伝3冠」を狙った青学大が悠々と偉業を達成した。その裏では王者に挑み、敗れたチームもある。前回2位の東洋大、同3位の駒大、全日本2位の早大、同3位の山梨学大、出雲で青学大を苦しめた東海大。この“5強”は、なぜアオガクの背中に届かなかったのか。

 指揮官たちを取材すると、今大会の特徴と、各校の敗因が浮き彫りになった。まずは今大会の特徴だが、非常にレベルが低かったといえる。青学大の総合タイムは11時間4分10秒。前回(10時間53分25秒)、前々回(10時間49分27秒)の優勝タイムと比べて、ガクンと落ちている。青学大の各区間を前回と比べると以下のとおりだ。

1区 1時間1分22秒→1時間4分00秒
2区 1時間7分35秒→1時間7分56秒
3区 1時間2分24秒→1時間3分03秒
4区&5区 2時間14分34秒→2時間18分46秒
6区 58分31秒→58分48秒
7区 1時間3分08秒→1時間5分40秒
8区 1時間4分21秒→1時間4分21秒
9区 1時間11分23秒→1時間9分55秒
10区 1時間10分07秒→1時間11分41秒
※距離が短縮・延長したため4区と5区は合算タイム。




 一斉スタートの1区は集団のペースがタイムに影響するため参考記録になるが、単独走が基本となる2~10区では、選手のレベルがタイムに現れる。前回よりもタイムが良かったのは前回区間7位だった9区のみ。2区一色恭志、3区秋山雄飛、6区小野田勇次、8区下田裕太の4人は前回と同じ区間を走りながら、8区下田が同タイムで、他の3人は前回からタイムを落とした(10区安藤悠哉も同区間を走った前々回よりタイムを下げている)。

 その結果、優勝ラインが下がったわけだが、他の有力校も良くなかった。3区から9区まで青学大の後を走った早大の相楽豊駅伝監督も、「気温は少し高かったですけど、風はなかったですし、記録が出ないコンディションではなかった。青学大は7区の田村和希君がブレーキしたのに、勝ちました。近年はそういうことはあまりないので、他の大学も力を出せなかった部分があると思います」と話す。青学大だけでなく、全体的にグダグダ感のあるレースだったわけだ。

 それでも青学大は圧勝した。
 その理由のひとつに「1区の流れ」が大きく影響していたと思う。芦ノ湖で往路の戦いを終えた東洋大・酒井俊幸監督と出会うなり、「いや、もったいなかった。あそこで押し切っていかないといけなかった……」と悔しそうな顔を見せた。「あそこ」とは、1区服部弾馬が5kmで飛び出したシーンを指す。

 東洋大は1区にエースを起用して、先制攻撃を仕掛けてきた。服部は全日本大学駅伝でも1区で飛び出して、区間2位の早大・武田凜太郎に11秒、青学大・下田裕太に31秒という差をつけている。箱根では後続を「30秒以上引き離したい」(酒井監督)と考えていた。

 しかし、「1区服部」は徹底マークにあい、苦戦した。5kmから飛び出す準備をしていたが、誰も前を引っ張ろうとせずに、5kmは16分05秒という超スローペースに。服部は予定通りにスパートするも、独走態勢を築くことはできなかった。結局、最終的にアタックしたのは最後の1km。鉄紺軍団のエースは区間賞を獲得したが、2位の東海大・鬼塚翔太に1秒差、青学大・梶谷瑠哉に4秒差しかつけることができない。東洋大の“勝利の方程式”は、1区終了時で崩れたことになる。




東洋大と同じく、1区で“損”をしたのが早大だ。
 高速レースを想定して1区にエース格の武田凜太郎を起用した。
「1区にカードを切っているので、ハイペースで行ってほしかった。1区がもっとバラければ、2区以降の選手の走りも変わっていたと思います」と相楽監督。武田は服部と3秒差で続いたが、青学大に1秒先着しただけだった。往路のゴールは青学大と33秒差だったことを考えると、1区で青学大に20~30秒のリードを奪うことができれば、違う展開になっていたはずだ。

 反対に1区がスローペースになり、救われた可能性があるのが青学大だ。
 当初は出雲1区で5位と好走したルーキー鈴木塁人を起用する予定だったが、故障のため、学生駅伝未経験の梶谷瑠哉に交代した。梶谷は1500mも走り、ラストのスピードが武器の選手。高速レースや、前半から何度も揺さぶりをかけられるようなレース展開は嫌だったはずだ。トランプのカードでいえば、服部が「ジョーカー」で、武田が「エース」か「キング」で、梶谷は「ジャック」だった。その3人は21.3kmを走って、わずか4秒以内にいた。青学大にとって、1区はうれしい展開になった。

 スターターには、もう1枚の強力カードが加わるはずだった。山梨学大は1万mで28分26秒70のタイムを持つ佐藤孝哉を当日変更で1区に投入する予定だったが、体調不良で欠場。1区で20位と出遅れ、3分近い大差をつけられた。優勝争いどころか、総合17位でシード権を逃している。

 1区で好スタートを切ったものの、「エース」の力を過信したのが駒大と東海大だ。駒大は故障あがりの4区中谷圭佑が最初の1kmを2分46秒で突っ込み、終盤に失速。青学大・森田歩希に4分31秒差をつけられ、区間18位に沈んだ。駒大は往路終了時で青学大と4分01秒差。エース中谷が冷静にレースを進めることができれば、目標の「往路優勝」は十分に射程圏内だった。




 東海大は2区に起用された注目のルーキー・關颯人が区間13位と振るわなかった。11月に胃腸炎と故障でトレーニングできない時期があったものの、両角速駅伝監督は、「彼のポテンシャルに頼ったところがあった。その見込みが甘かったですね」と反省した。6区位までに5人のルーキーを起用するも、6区終了時で15位。1年生パワーは炸裂しなかった。

 勝負事に「たら・れば」をいうとキリがない。しかし、今回の青学大は「強い」とはいえなかった。他大学にも十分に歓喜のチャンスはあっただけに、ちょっと寂しい思いはある。箱根駅伝は日本中が注目するビッグレース。各校がベストパフォーマンスを発揮したうえで、最高の戦いを見せてほしかった。
 
 最終的には、選手層が厚く、致命的なミスを犯さなかった青学大が今回も笑った。全日本に続いて、青学大を苦しめた早大の相楽監督に最大の敗因をひとつ教えてほしい、と質問すると、かなり悩んだ後に、「勝ちたいという気持ちだったと思います。離れたところでウチは集中力が切れている選手が多かった」と答えた。勝ち続ける青学大は、勝利への貪欲さも一番だったのかもしれない。


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posted by 得笠野 哲太 at 08:08| イベント | 更新情報をチェックする