2016年11月12日

福井障害者職業センター パワハラ休職から復帰の事例

福井県内の製造業で働く50代男性は、職場でのパワハラに耐えきれず半年間、自殺する場所を探し続けた。うつ病などの休職者を対象とした福井障害者職業センターの職場復帰支援件数は年々増加。今年4月には電力会社の社員が自殺し労災認定を受けるなど、労働環境の悪化で精神的に追い詰められている社員が増えている可能性がある。社員の心身を健全に保つための企業努力を求める声も出ている。

 インターネットの自殺情報サイトを参考に、練炭とカセットコンロを買い込み、車に積み込んだ。県内の製造業で働く50代の林大紀さん(仮名)は「仕事が休みの週末は、夕方車で家を出て、深夜まで奥越の山や越前海岸を回った」。死に場所を探すドライブは半年続いた。

 「給料泥棒」「やる気あんのか」。職場の同僚から2年ほど、侮辱的な言葉をかけ続けられた。社内メールでは大きな文字で「(あなたが)何を考えているのか分からない」と、繰り返し送られてきた。周囲から「自分が不利になるよ」と言われたが、社内の相談窓口に駆け込んだ。結局、同僚の事情聴取は行われなかった。

 「もう死ぬしかない」。妻や子どもの未来を考える余裕はなかった。車のダッシュボードにしのばせた妻宛ての遺書には「同僚(イニシャル表記)と会社を訴えてほしい」とつづった。道連れにしないと気が済まなかった。




県内で労災保険給付の請求があったうち、精神障害で自殺した人は2015年度までの10年間で18人に上る。


 平日の午前10時、福井市の福井障害者職業センターにはうつ病などで休職し、職場復帰を目指す人がやって来る。朝一番の気分をチェックした後、簡単な数字や文章をパソコンで打ち込んだり、架空の納品書と請求書を照合したりする作業を行う。そううつ病の林さんも5カ月通った。

「社員を辞めてパートになれと言われた」「売れるまで会社に戻ってくるなと怒鳴られ続けた」。グループミーティングでは、参加者が輪になって休職までの経緯を打ち明ける。林さんは「過去をはき出すことで、仕事へのプライドは捨てれば良いと思った。肩の力が抜けた」と話す。

同センターの職場復帰支援利用者は年々増加。スタート時の06年は8人だったが、15年度は61人。本年度は9月末で37人。30~40代が多いが、カウンセラーの関根和臣さんは「最近は職場になじめない若者が増えている」と話す。

 同センターの15年度の職場復帰率は92・2%だが、病気が再発し、戻って来る人もいる。厚生労働省の研究によると、復職後約2年間での再休職、失職者は26・7%。関根さんは「復帰しても完治ではない。企業側は配慮してほしい」と訴える。

 県社会保険労務士会の青垣幹夫会長も「人口減で人手不足が深刻になる中、社員の心身を維持するための企業努力が問われる」とし、利益だけを追求する企業に社員は定着しないと指摘する。

 林さんは通所後、元の会社に復帰。自分の社内的立場を受け入れられるようになった。今のところ再発の兆候はなく、遺書は捨てた。「退職後は、老人ホームで送迎バスの運転手をやりたい」。ささやかな夢を支えに一日一日を生きている。
posted by 得笠野 哲太 at 12:04| パワハラ事件 | 更新情報をチェックする